月をめざした二人の科学者―アポロとスプートニクの軌跡

的川泰宣著 中公新書・中央公論新社

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月からの地球の出。
出典ウィキメディア・コモンズ

「宇宙開発」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?アニメの「宇宙兄弟」「プラネテス」それとも「ガンダム」「宇宙戦艦ヤマト」。それともスペースシャトル国際宇宙ステーションでしょうか。又、昭和30年代生まれの方は「アポロ11号月面到達」の映像に見入った方も多いのではないでしょうか?かく言う私もその一人です。

本書の「二人の科学者」とは、このような華々しい画面にはあまり登場しませんがアメリカ、ソ連の宇宙開発に重要な役割を果たした二人「ヴェルナー・フォン・ブラウン」と「セルゲイ・コロリョフ」が主人公です。特にソ連のコロリョフは死亡するまで名前が表舞台に出ることはありませんでした。

話は二人の少年時代の夢、宇宙への憧れを抱くところから始まります。
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発射装置上のV2
出典ウィキメディア・コモンズ

そして着実に夢に向かう青年時代の二人は国家の要請によりロケット開発から戦争兵器への転用へと進みます。

コロリョフは航空機設計からェット推力研究グループに参加し、ソビエト連邦で最初の液体燃料ロケットの打上げに成功しますが、他の研究所メンバー告発による冤罪で理不尽にも投獄、シベリア流刑されてしまいます。

方やドイツのフォン・ブラウンは「V-2」を成功させますが「ロケットは完璧に動作したが、間違った惑星に着地した」と述べています。

そして第2次世界大戦終戦。ドイツV2の遺産から、宇宙を目指した新たな開発競争が始まります。アメリカ、ソ連の国家と政治家の思惑に影響されながらも予算獲得に奔走し開発も影響されながら進んでいく様子、宇宙開発には人と巨額予算=政治的な関係が必要な事もよくわかります。

競争と技術開発は急速に進み、コロリョフは軍や党の反対、さらに事故や失敗を乗り越え、
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打ち上げロケット最上段と結合した状態のボストーク宇宙船。
出典ウィキメディア・コモンズ

人工衛星、有人飛行などソ連が先行します。

などを次々と成功させます。

一方アメリカに渡ったフォンブラウンは開発チームと共にNASAに移籍し

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月へと向かうサターン5型ロケット。
出典ウィキメディア・コモンズ


マーシャル宇宙飛行センター初代所長に就任し、サターンロケット開発、アポロ計画を着実にすすめます。そしてアポロ1号の事故を乗り越え、ついにサターンVロケットで月面に到達します。

  • 1968年 初の月周回飛行:アポロ8号 フランク・ボーマン ジム・ラヴェル ウィリアム・アンダース、
  • 1969年7月16日 初の有人月面着陸:アポロ11号ニール・アームストロング マイケル・コリンズ バズ・オルドリン
宇宙開発は度重なる事故があったことも書かれています。
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スペースシャトルからみたISS
出典ウィキメディア・コモンズ

2国間での競争が無理を強いたことも影響したと思われる事故もあり、死亡事故もたびたび起こっています。

その後開発の舞台は宇宙ステーションへと移り、計画はサリュートミールスカイラブと続きますが、コロリョフの死去、フォン・ブラウンのNASA辞任そして死去までが描かれたところで本書は終わります。

ソ連崩壊とアメリカの予算不足などを経て現在のISS(国際宇宙ステーション)での国際協力体制が出来た訳ですが、もっと早期に実現していれば防げた事故もあったかもしれません。

ソ連最後の宇宙ステーションの名前「ミール」とはロシア語で「平和」「世界」を意味します。なんだか象徴的に思えます。

 

 

宇宙開発の初期から歴史的な推移と国家、政治との関わりを知るためには最適な本だと思います、特に旧ソ連での出来事は興味深いです。又、技術的、政治的な事柄など数々の困難を乗り越え宇宙開発のような巨大・巨額なプロジェクトを進めるためには「人を動かす」事が大事だと思いました。

本書を読んで宇宙を目指し、あこがれる人が増えるきっかけになればと願います。

合わせてイギリスBBC作成のDVD「宇宙へ 〜冷戦と二人の天才〜」がおすすめです。

私のおすすめ星 ★★★☆☆